「人」に配慮した、単なる工場を超える生産拠点を
2013年8月、ノヴァ創業の地である埼玉県北本市に、製品の生産拠点と本社機能を兼ねた新しい施設が完成します。この新社屋の名前は「ノヴァミュージアム」。なぜ、製品の生産拠点が「工場」ではなく「ミュージアム」という名前なのか。それにはいくつかの理由が存在します。
ノヴァが2004年から支援を続けている「もうひとつの美術館」※の作品を展示したいという思いが一つ。そしてもう一つは、「ノヴァミュージアム」で働く人が快適かつ効率的に仕事をすることを通じて社会や環境に貢献するといういわば“アート”を実現したいという願いです。
ノヴァで海外から輸入した小売り用製品の再選別・袋詰めを担当するのは、主婦を中心としたパートタイムの熟練スタッフです。品質管理の要を担うこのスタッフが、働きやすく継続して勤務できる労働環境を整備することが、より良い製品づくりにもつながる。経営に携わるなかで、こうした私の思いは日ごとに強まり、「スタッフが仕事をしやすい環境」をどう形にするかを常に考えてきました。
現在の工場兼本社では、限られた環境で工夫をしながら作業を行ってきましたが、今回の「ノヴァミュージアム」では、床暖房の導入など、よりよい労働環境を実現する配慮が設計段階から組み込まれています。
例えば、新社屋ではエアコンの風が作業をする人に直接当たらないよう、通風口を製造場の外側の壁に向かって設置してあります。床暖房を導入したのは、冬場に床で作業をする際に足腰に負担をかけないため。車いすの人も作業に差し支えないよう、内部はすべてバリアフリーです。
環境が快適かそうでないかには、デザインも大きく影響します。そこで内装も効率一辺倒ではなく、木目の風合いを活かした自然を感じさせるものをオーダーしました。製造や本社業務に関わる部分だけでなく、セミナールーム、休憩所など福利厚生も含めた部分も充実させています。
「人」が企業の最大の財産
企業は経費削減、効率化という題目のもと、「利益に直接関係ない」設備費、光熱費への投資は二の足を踏みがちです。しかし、私にとって一番大切なのは「人」です。
人は言葉を発してコミニュケーションをとる生き物です。私は一人の人間として、過酷な労働環境よりも、働きやすく居心地が良い環境をつくることで効率が良くなると考え、これまで、環境整備や効率化を進めてきました。ある意味でストイックな考え方ですが、その効果は実感しています。
また、主婦は限られた時間内に必ず仕事を終わらせます。主婦は朝一番に窓を開けて朝ご飯を作り、子供を幼稚園や学校に出し、夫を見送ってから会社に来て仕事をする。そして、子供を迎えに行き、晩ご飯の支度をして家族を待ちます。彼女たちが仕事のしやすい環境を整えることで、会社が理想とする効率化を実現できるというのも事実です。
生産拠点としての機能を果たしながら、単なる「工場」には留まらない。そんな「ノヴァミュージアム」を完成させるには、まず、どのような設計を行うべきか。その答えを探るため、私は2011年秋から、かねこ建築製作所とともに、「女性が働きやすい職場」を念頭に置き、約1年をかけて設計に取り組みました(かねこ建築製作所による設計スケッチはこちら)。
また建設にあたっては、12の建設会社を訪問し、代表の方や現場監督を務める方と直接お話をさせていただきました。そして、最終選考に残った4社に対して、見積書とともに、新しいノヴァの新社屋施工に対して思いをまとめた文章を作成することをお願いし、単に「価格」という以上に「気持ち」を重視して施工をお願いする会社を決定。最終的に見積もりをお願いした4社の中から、エアコンの設置方法をはじめ、「ノヴァミュージアム」の理念を見事に形にしてくれた株式会社内田産業さんに建築をお願いしました。
私は最初に「価格では選ばない」ことを各社に提示していました。新社屋の建設に際して、職人の方たちにも無理はしてほしくないと考えたためです。
企業にとって最大の財産は人です。より快適な環境のもと、誰もが効率的に活き活きと仕事をし、自分の可能性を最大限に発揮できる場所をつくる。これが、今回の「ノヴァミュージアム」の建設にあたって、最も力を入れたポイントです。
代表取締役社長 ブッシュ一木